汲めども尽きぬ知恵の泉

「武器はこの身ひとつ」を目指して

【書評13】『明治の人物像』星新一|努力し、なお努力する

 

本を読み始めたきっかけが小学校の時出会った星新一ショートショートである。今でもショートショートが好きだが、それに劣らず星さんの長編が好きである。『声の網』『人民は弱し 官吏は強し』など名作が多い。

 

今回の『明治の人物像』だが、これは星新一版の「自助論」ではないかと思う。自助論とは、スマイルズという人が書いた、成功への心構えや科学の発達史を、膨大な具体例を用いて説いていく本である。これを日本で初めて訳したのが中村正直である。

 

この本が、野口英世伊藤博文エジソンなどそうそうたるメンバーの中、自助論というものを約した中村正直を第一番目においてあることからもわかるが、現代日本の「自助論」的な一冊を書こうとしたのであろう。

 

エジソンを除き日本の明治に活躍した日本人たちが、どのようなことを行い、またどういう気持ちでいたのかということを書くことで、日本の人々に向上心や勉学への意欲といった「自助の精神」を植え付けようとしている気がする。また、政府はじめ不当な扱いを受けてきた父、星一への慰みの気持ちも伝わってくる。

 

自助論で人生観を強固にしよう

星新一の父、星一は、さまざまな苦難に陥りながらも、めげることなく事業に取り組み、人々の役に立とうとした。そんな星の精神を支えたものの一部が、自助論だ。自助論は現代にも通ずるとてもいいことを言っている。

 

人生観をより良い方向へと導いてくれる言葉、事例でたっぷりだ。自分もいくつか紹介したい気持ちでたまらない気持ちになった。

 

「一国の価値は、つまるところ、それを構成している個人の価値に他ならない。」

 

「政治は国民の個性の反映。人民の水準が高まらない限り、国は良くならない。またあ、社会悪と呼ばれるものの大部分は、人々の堕落した生活が生み出したものである。」

 

「歴史上、人類の進歩に尽くした人物は数多くいる。しかし、それは特殊な人たちではない。貴族や金持ちの家に生まれた人たちが、それを成し遂げたのではない。低い身分、貧しい家から優れた人材のであることが多い。」

 

「生まれながらの富は、人に向上心を生み出さない。」

 

「地動説を唱えた天文学者コペルニクスは、ポーランドのパン屋の息子だった。地動説に感動し、それをさらに研究し、惑星の運動法則を発見したケプラーは、ドイツの貧しい居酒屋の子に生まれた。それに触発され、万有引力を発見したニュートンはイギリスの農民の子だった。」

 

「医師のジェンナーは、ヒントを得てから20年以上友人たちにバカにされながら観察と実験を重ね、種痘を確立した。」

 

「音楽家ハイドンは「問題を取り上げて追及することが大事だ」といい、モーツァルトは「仕事が最大の楽しみだ」としばしば他人に語り、ベートーベンは「力行と勤勉なる才能にとって、ゆきどまりはない」との言葉を好んだ。」

 

「不運を嘆く人は、自己の怠慢、不始末、不用意、不勉強の結果に他ならない。」

 

 

などなど、すばらしい教訓がちりばめられている。この中村正直の話から始まり、ほかにも偉人の生い立ちとともに歴史館を身に着けながら、かつ成功への精神を刺激してくれるすばらしい本となっている。

 

努力なしに何かを成し遂げられるものはほとんどいない。しかし、逆に言えばどんな生まれだろうが努力次第で自分をどんなところへもつれていくことができる。

 

いま、好きで何かを続けている人は、世間体などを気にせず走り続ければいい。また、失敗しても工夫に工夫を重ねればいいのだ。というふうに、励まされた一冊だ。

 

神は、自ら助くるものを助くのである。

 

 

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