汲めども尽きぬ知恵の泉

「武器はこの身ひとつ」を目指して

【書評11】『国境の南、太陽の西』村上春樹|

自分の中の繊細な部分を表現してくれる

村上春樹を初めて知り、引きつけられた原因はこの『国境の南、太陽の西』だ。たしか高校の時の国語の模試かなんかで、この本の一節が引用されていた。そしてその中の一部に衝撃的な共感を持った、という感じでこの本を知り、村上春樹にハマった。今でもたまに読み返し、自分に何とも言えない気持ちを思い起こすその一文がこれだ。

 

「そして僕は長いあいだ、彼女に対して僕の心の中の特別な部分をあけていたように思う。まるでレストランの一番奥の静かな席に、そっと予約済みの札を立てておくように、僕はその部分だけを彼女のために残しておいたのだ。島本さんと会うことはもう二度とあるまいと思っていたにもかかわらず。」

 

一人の人間に対して、ある程度長い期間その人を思い続けることで得られるものだ。自分の体験や感情を挟もうとすると恥ずかしいことになるので避けるが、この文に深く共感できる人が一定数いると思う。「レストランの~」から始まる表現が、この現象に非常にピッタリとしていて感動を覚える。

 

自分が抱くこの感情、体験するこの現象に対して、これ以上的確な表現や例えとは一生出会えないと思わせる。

 

感情などといったものは、一種の幻やフィーリング的要素が強くて、的確に表現することは難しい。また、表現しようと文章に起こしてみても、うまくできなかったり納得いかなかったりすると思う。

 

村上春樹は、そういった感情などという極めてあいまいなものを、文章として、ここまでリアティをもって表現しているところがすごい。

 

登場する女性に含まれる霊的な何か

ノルウェイの森』や『海辺のカフカ』といった作品で、主人公が愛情を抱く女性たちには、霊的な何かが共通している気がする。うまくいえないが非現実的な、霊的な何かを感じさせることがある。

 

まだ村上春樹を知ってから日が浅いので、何ともうまく言えない。ひとつの作品を読んだときに靄っとしたものが残ったときは、ほかの作品を読んでみると理解の助けになるかもしれない。

 

とにかく今回は上の一節が大好きだということを伝えたかった。

 

 

※文章があいまいなのと、村上春樹のファンで不快に思った方がいたら申し訳ないです。

 

 

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