汲めども尽きぬ知恵の泉

「武器はこの身ひとつ」を目指して

星新一のショートショートの世界⑦「ほほえみ」

 
 

 

あたしはなぜ、こんなところに立っているのかしら、と、その女は思った。

これはどこへ行く道?いくら考えてもわからなかった。

そのうち一台のバスがやってくる。あれに乗ればいいんだわ。

行くべきところに運んでくれるでしょう。

 

停車したバスに乗る時、彼女はちょっとほほえむ。それを見てバスの車掌は制止した。

「あなたは乗れません」

「なぜなの、空席はあるじゃないの。それなのにほかの人だけを乗せて…」

「あなたは今、顔にほほえみを浮かべた。まだそれの出来る人は乗れないのです」

車掌は車内の掲示を指さし、確かに記載されていた。

とまどう彼女を残してバスは去った。

 

意識を取り戻した彼女は、自分が病院のベッドの上に寝かされていることを知る。

枕もとで医者らしき人がいう。

「服毒自殺をするなんてむちゃですよ。一時はダメかと思いましたが、奇跡的に一命をとりとめたようです。きっと、心の底まで人生に絶望してはいなかったんでしょうね…」

 

 

 

 

感想

 

人間の、「この世とあの世の境目」の話は数多く存在する。

有名な話は三途の川とおじいちゃん、とか。

この話はバスがあの世までの乗り物で、帰ってこれる条件が「ほほえみ」だったわけだ。