汲めども尽きぬ知恵の泉

「武器はこの身ひとつ」を目指して

星新一のショートショートの世界②「魔法のランプ」

 

 

 

エヌ氏は必死に救命ボートをこいでいた。

乗っていた船は沈んでしまったが、やっと助かったのだ。

陸を目指してこぎつづけてきたため、すっかりくたびれてしまった。

それに、おなかもすいていた。

 

魚でも釣って食べようと思い、海へ糸を垂らすと、

魚ではなく見慣れぬ形のランプを釣り上げた。

 

「変なものが釣れたな」

といじっていると、煙が立ちのぼり、中から現れた男が言った。

「これはアラビアの魔法のランプです。私は中に住んでいる魔人です。

持ち主がランプをこすると現れ、望みを一回だけかなえてあげます。」

「それはありがたい」と、エヌ氏。

 

「しばらくお待ちください。すぐにお望みの物を持ってまいりますから…」

風に乗って立ち去り、やがて帰ってきた魔人は、ボートの上に箱を置いた。

 

開けてみると金貨が詰まっている。エヌ氏は言った。

「なぜこんなものを持ってきたのだ」

「あなたの好きなものですよ。今までにうけた命令はみなこれでした。だから、おっしゃらなくてもすぐに運んでくるようになったのです。」

そして、魔人はランプの中に戻ってしまった。

 

エヌ氏は顔をしかめ、ランプ、そして金貨の入った箱も海へ捨てた。

こんな重いものをつんでいたらボートはなかなか進まず、生きている間に陸にたどり着けないではないか。

 
 
感想
 

 

 

ランプの魔人があらわれ、「一つ願いをかなえよう」といわれたとき、自分なら何をお願いするだろう。豪邸、たくさんのクールな服、宝石、装飾品、美食、豪華旅行、休暇…

今まで魔人に会うことに成功した人も同じように欲しいものを考え、

「結局金があれば全部手に入る!」という同じ考えに至ったのだろうなあ。

今の時代、たいていのことはお金でなんとかできる。

 

魔人は相当な数の人間に会って、ほぼ全員にお金を頼まれた結果、「どうせこの人間もお金に決まっている、手間を省こう」と、今回に至ったのかもしれない。

 

 

でも状況によっては金貨もただの石ころで、価値が変わってくる。

しかも今回のお話の場合は、お金が「今最もいらないもの」という点でさすがのユーモアだと思った。