汲めども尽きぬ知恵の泉

「武器はこの身ひとつ」を目指して

星新一のショートショートの世界①「信念」

昔から星新一が好きで、今でもふと読み返すことがあります。

面白いショートショートを発見し、短く書き換えてみたのでぜひ読んでみてください。

 

信念

 

「善良であっては、たいした人生を過ごすことができない」

 

一人の男がいて、これが彼の信念だった。

歴史物語、実録日記、小説に至るまで、いきいきと活躍する主人公たちは

みな、何かしらよからぬことをやっている。そして、その踏み台は必ず善良な市民だ。

 

こんな状態が許されていいのだろうか、と、彼も最初は憤った。

しかし、現実こそ正解なのだ。良いの悪いのという段階ではない。

やがて、憤りは疑問へと変わった。「これが世の中の真実なのかもしれない」

さらに妥協から信念へと移った。

「どうせやるのなら善良の束縛を徹底的にはらいのけてしまおう」

 

善良たることを否定したといって、彼は悪事に走り出したわけではない。

精神状態はあくまで正常で、冷静であった。

目的は金で、正確に言えば人生を楽しく満足感を持って過ごすための資金だ。

それを得るために、良心のささやきのスイッチを切ってしまうことに決めたのだった。

良心を捨てたといっても、すぐさま凶器を掴んで強盗を働こうなど、

かんがえもしなかった。満足するための金額に達するには犯行を重ねなければならず、

手に入る額もたかが知れていて、スマートではない。

 

やるからには綿密な計画と準備、それに機会を最大限に活用することだ。

彼が学校を出てからはじめにしたことは、まともな大きな会社に就職することだった。

そして、集金係に配置されたことが、漠然としていた彼の計画を次第に結晶化させていった。

「持ち逃げという行為は研究するに値する」と。

第一にかんたんであり、他人を殺傷する恐れもない。

 

持ち逃げに限る、と方針は決まったものの、すぐに実行には移さなかった。

今自分にまかされている金額では、欲望を満たすにはあまりに不十分だからだ。

信用を築き任される額が増えるのを待とう、悪事にも忍耐が必要なのだ、と彼は思った。

彼は、まじめな勤務ぶりを装い、上司の前だけでなく、

同僚、取引先、近隣の人に至るまで、徹底してそれをやった。

 

集金額の差異を、将来の投資とわざわざ自分の金であわせた。

二人組の男にひったくられそうになり、に襲われた時も、

「これは将来俺がもち逃げする金だ」と、傷ついて血まみれになりながらも抵抗した。

入院をも必要とするけがを負ったが、見舞いに来てくれた人は、賞賛してくれた。

 

そんなことで、社内では、彼の馬鹿正直に見える態度や、まじめな勤務ぶりが

ひろまり、退院した後には異例の出世を果たした。

扱える金額も格段に跳ね上がった。

しかし、これからは部下の目もくらませなくてはいけない、と

これまで以上に努力した。上司からの信頼はますます増した。

彼は緊張を緩めることはなかった。内心の計画を少しでも察知されたら、

今までの苦労も水の泡になる。その秘密さえ保っていれば、彼の信用が

増え、任される金額も増える。すなわち将来の彼の財産がふえるのだ。

 

緊張は、帰宅してからも途切れず、勉強に励んだ。

法律。法の網をくぐって逃げるのだから詳しい方がいい。

経済。持ち逃げした資金を有利に回転するには、無知ではだめだ。

外国語と国際情勢。場合によっては国外逃亡をしなければならない。

そのとき、いい加減な国でうろうろはできないし、安全な国で商売を始めなければならない。

彼の構想が膨れ上がるたびに、持ち逃げすべき資金の金も増えてしまう。

 

仕方なく会社での地位を上げるために、学んだ知識の一部を提供する。

それは無駄にはならず、確実な収穫となって帰ってくる。

彼は努力し続けた…

 

 

経済新聞の記者が、彼に向かってこう聞くことがある。

「あなたは今日の地位を、異例なスピードで、しかも正当な手段で獲得なさいました。」

何か秘訣がおありなのでしょう」

「ええ、信念ですよ」

 

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